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ですね。ほんまにやりきれない気持ちです。この本はお蔭様でよく売れてるそうですけれども。
谷川……日本の民俗学から見てもね、日本人の中心であった稲の問題、あるいは米の問題がここまで軽蔑され、踏みにじられ、足蹴にされているというのは耐えられません。
渡部……そのいちばんの基本が、米を十分に作れないということなんです。それから、日本のお米が外国の米に比べてものすごく割高だという意識が消費者にあるものですから、米を作っても生産者の生活はそれ程楽にないと言われます。
谷川……根底に何があるかって、いろんなことが考えられるんですが、司馬遼太郎さんが亡くなられる前に、『風塵抄』の中でこう言っていました。日本人の土地に対する観念が非常に堕落してしまったと。土地は単に売買の対象でしかない、あるいは投機の対象でしかないという状況に陥ちた。土地に付する信頼感なり、土地を大事にするという観念がなくなってしまったということを述べていました。司馬遼太郎さんの突然の病死というのは、私は憤死のような気がしてしょうがないんですね。渡部……あれが遺書ですものね。
谷川……一種の遺書ですよね。奥さんに向かって、もう日本は駄目だと。それは口癖のように言っていたと。もう聞くのがつらいぐらいに言っていたっていうんですね。私は今から幾十年も生きるわけにはいきません。しかし、目の前が暗澹としていて、日本はもうこのままでは滅びるのではないかと思うんです。アジアの大草原の中には、昔の大帝国がいくつも消えていきましたからね。やがて日本もローマの末期みたいに飽食の報いを受けて、だんだん衰弱していく一方ではないかという気がしてしょうがないんですね。
渡部……私もそう思います。このままだったら、そうならざるを得ないのではないかと思いますね。
今お米の値段は店頭価格で一〇キロあたり五千円くらいが普通ですが、お百姓さんが一〇キロ三千円ぐらいで渡していると思うんです。農水省の統計で換算すると、一反歩の収入で七〜八万なんですよ。一町歩持ったって。百万円以下です。そんなことでは、私が百姓でもやめると思いますね。だから、兼業せぜるを得ない。一町歩でも兼業できますからね。小学校の先生をやっていててもできますし、農協に勤めていてもできますから、そういうお百姓さんがたくさんいるわけです。しかし、一生懸命やって一町歩で百万円もとれないということであれば、賢い青年だったら村を出るというのは当たり前だと思うんですね。それをやめなさいと私は言えないんですね。
谷川……渡部さんのような専門家がもうどうにもならないとおっしゃっているのが、私はまたつらいんですよね。私なんかは素人だから、誰か専門家に例えば何か結論というか、活路が聞けるのではないかと思うわけです。
渡部……農村を救うのは技術でもありませんし、流通でもありません。思い切った決断を政治はしてくれないことには。
谷川……それにはやっぱり自由化をやめることですね。
渡部……一つは自由化をやめる。GATTを見直すというのは方々で話は出ているようですね。GATTというのは、もう明らかに先進農業国にとって非常にマイナスの部分が多い。その国の農業を潰す可能性があるということは、日本だけでなくしてフランスやドイツあたりのEUの先進農業国もやはり自分の国の農業をちゃんとしていく上にGATTの取決めというのはあまりにも輸出国の優遇に傭った施策であると非難しています。
やめることができなければ、林業者も含めて農民に思い切って俸給を出したらいいと思っているんです。彼らを国家公務員にすることが必要な段階になると思います。。ヨーロッパで今、山林を守っている人たちに対してずいぶんたくさん政府がお金を出していますね、所得保障しています。デカップリングといいます。国土の山を守るというその働きに対して政府が金を出しています。日本の山を守る、田を守るということは自然を守る、国土を守るということで、彼らの行為は生産行為以上に付加価値があることですから、それに対しては思い切って政府は金を出していいのではないかと思っています。そういうことをすると、消費者はまた補助金だとか、言いますが、そこらへんの政策転換をしないと、どうにもならなくなってきたのではないかと思いますね。もう単に技術的にこうしたら農村が儲かるとか、こんな品種を作ったらどうだとか、あるいはバイオテクノロジーでこんなことを

 

 

 

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